低侵襲心臓手術(MICS)

低侵襲心臓手術とは?
低侵襲心臓弁膜症手術=MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)とは

低侵襲心臓手術とは?

一般的に行われている通常の心臓弁膜症の手術は、胸骨を縦に切開する「胸骨正中切開」です。この方法は、喉元からみぞおちにかけて約20~30cmの傷が残ります(図1-1)。
低侵襲(ていしんしゅう)とは、できるだけ小さな切開(小切開)で行う手術のことで、当院で行っているMICS(ミックス)手術は肋骨(ろっこつ)と肋骨の間を 5~7cmほど切開して手術する「肋間小開胸」がほとんどです(図1-2)。

  • (図1-1)術後の傷跡:胸骨正中切開
  • (図1-2)術後の傷跡:肋間小開胸
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  • 低侵襲心臓手術(MICS-CABG)

MICS(ミックス)のメリット

当院で行っている低侵襲(ていしんしゅう)の MICS では、胸骨を切らないため出血が少なく、傷の感染のリスクもほとんどありません。
傷は小さく、特に女性では傷口が乳房に隠れほとんど見えなくなります(図2)。
また一般的に、胸骨正中切開の手術後は自動車や自転車の運転、上半身を使う肉体労働、テニスやゴルフなどのスポーツは約2カ月間は控える必要がありますが、MICSではそのような運動制限はありません。そのため、早期リハビリ、早期社会復帰が可能となり、手術後のQOL(生活の質)が向上します。

  • (図2)術後の傷跡:女性
  • (図2)術後の傷跡:女性
  • (図2)術後の傷跡:男性

MICS(ミックス)のデメリット

手術時に実際に目で見える範囲が、胸骨正中切開は「大きく、浅く」、小切開での MICS は「小さく、深く」なります。そのため、MICSの手術は技術的には難しくなり、手術時間や人工心肺を回す時間、心臓を止める時間も通常より長くなる傾向があります。
技術を習得するのに時間がかかるため、MICSの経験が少ない施設では、出血量や術後合併症の発生率が高いという報告もあります。MICSを受けるには、経験の多い施設を選ぶことが大切です。

どのくらいの人がMICS(ミックス)を受けてきたの?

当院では低侵襲のMICSを2005年から開始しました。2013年以降は毎年90名を超える病客さまの手術を行い、 2005年から2019年までの累計で1131例の手術症例数となっています(表1)。 最近では高齢者でもリスクの低い人には、積極的にMICSを行う方針としています。
また、弁膜症だけでなく冠動脈バイパス手術(CABG)にもミックス手術を取り入れており、全国からMICS希望の病客さまをうけいれています。

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 合計
僧帽弁 1 3 16 24 44 37 54 37 49 57 41 50 73 57 53 596
大動脈弁 0 0 3 14 11 13 11 11 30 29 33 31 30 40 29 285
僧帽弁+大動脈弁 0 0 0 0 0 1 2 1 7 8 5 5 1 4 5 39
CABG 0 3 1 3 1 1 1 3 17 16 25 25 21 19 6 142
先天性心疾患 5 6 5 3 1 1 2 1 4 0 0 3 2 1 2 36
そのほか 0 0 0 3 0 0 0 4 3 2 7 3 5 5 1 33
合計 6 12 25 47 57 53 70 57 110 112 111 117 132 126 96 1131
(表1) 榊原病院における低侵襲のMICS症例数

どんな病気でMICS(ミックス)ができるの?

当院では条件さえ合えば、基本的にほぼ全ての弁膜症(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁)、冠動脈バイパス手術、心臓腫瘍(粘液腫など)、心内血栓除去、不整脈手術に対応しています。僧帽弁形成術の約8割、大動脈弁置換術の約3割、冠動脈バイパス手術の約2割を現在、低侵襲のMICS手術で行っております。
また、当院の特徴として、高齢者の重症大動脈弁狭窄症や、複合弁膜症、多枝冠動脈バイパス術も積極的にMICSで行っています。

誰でもMICS(ミックス)手術を受けられるの?

残念ながら、すべての人で低侵襲のMICSができるわけではありません。全身の動脈硬化の強い人、肺が悪い人、心機能が低下している人などではMICSができない場合があります。その場合は通常の胸骨正中切開での手術をおすすめしています。
逆に、条件さえ整っていれば高齢者でもMICSは可能で、最近の大動脈弁置換術の半数以上が70歳以上の高齢者でした。

MICS(ミックス)よりカテーテル治療の方が低侵襲なの?

当院でも2013年末から経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を行うようになりました。TAVIは開胸せず、人工心肺を用いず、心臓を止めないため、体への負担はMICSよりも更に少ないと言えます。しかしTAVIの適応は現時点で開胸手術のリスクが高い方のみです。TAVIが不要または不適切とされた場合、通常は胸骨切開で手術が行われます。
当院では高齢者の重症大動脈弁狭窄症でも低侵襲のMICSを行っているため、通常開胸手術、MICS(ミックス)、TAVI、どの治療が最も安全なのかを判断し、その人にとってベストの治療法を提示するようにしています。

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